「「声が出る」だけで奇跡的」

──川崎さんが終始支えになってくれていたんですね。

ヨエコ：はい、本当に！早く親友孝行をしたいです！！そして、せっかく入院したのが大学病院なので、この際不安だった事も調べて貰おうと思いました。それは、私も大学で勉強した、発達障がい「ADHDの注意欠陥型」で、二次障がいでうつ病になったのではないか？と、考えたのです。当時、ADHDが怖いほど自分に当てはまる！と衝撃でした。

病院では、色々な検査と複数の医師が集まるカンファレンスを受けました。そうしたら、発達障がいやうつ病ではなく、最終的に「統合失調症」という診断が下りました。今でこそ、病気について勉強して頭が柔軟になりましたが、その頃は不勉強で、統合失調症（昔は「精神分裂病」という恐ろしい名前で、今でも偏見が強い病気です）というと怖いイメージしかありませんでした。

私の場合は、陽性症状（幻聴・幻覚＝例えば、街中で独語をしてる方は一人喋りしている訳ではなく、その人だけにはちゃんと会話相手がいる）は少なく、陰性症状（希死念慮・体が重く動かない等うつ病に似ている症状なので、最初は重度のうつ病という診断だった様）が大半を占めていました。

急な「統合失調症」が受け入れられず、号泣の日々でした。しかし、主治医が脳の病気（ドーパミンのバランスの悪さ）ですからと、丁寧に説明してくれ、今となれば、ちゃんと入院して診断名がはっきりし、病気の特徴に合わせた生活の仕方が分かり良かったと思います。人生が一変した出来事でした。

退院後は、川崎さんが代理で準備してくれていた役所・福祉施設の方からの見守りを受けつつ、嫌な記憶を捨てるかのようにまた引っ越しをしました。大学病院は遠くなったため転院し、社会生活に復帰するためのリハビリ施設「デイケア」に通いはじめました。傷病手当と失業保険と合わせ、どうにか数年はゆっくり心身を整える事ができました。ちなみに、デイケアでは作業療法士さんや看護師さんが、色々な勉強会を開いてくれたり、ヨガやアロマの先生が来てくれたり、レクリエーションも豊富。私がいた所では、ほとんどの方が統合失調症でした。でも、皆いい人ばかり。のんびり優しい人の方が多く、同じ病気の友人もでき、新しい街でリフレッシュできました。ストレスのない生活環境に様変わりしたせいか、ついにその日はいきなりやって来たのです。

──何が起きたんでしょう？

ヨエコ：なんと7年近く出なかった歌声が魔法のようにするすると出るようになったのです！！！デイケアではクラブ活動も色々あって、私はカラオケクラブに入ってみました。皆の前で歌うと「上手だね〜！歌手になれるんじゃない？？」なんて言われてました（笑）。ろれつも回らない話せないところから、歌えるようにまでなった正夢が飛び上がるくらい嬉しくて嬉しくて、デイケアで歌ってばかりいたら耳が過敏な方から「声が大きい、うるさい。」とクレームが来ました……すみませんでした……つい（汗）。

──それだけ嬉しかったんですよね（笑）。

ヨエコ：はい（笑）。丁度そんな頃、友人のドキュメンタリー監督、竹内亮さんから「新番組のテーマ曲を書いて欲しい」と依頼が来ました。バキバキと腕が鳴りました（笑）。ササニシカさんに演奏して頂き、無事二曲産まれ、竹内さんの拠点である中国にまで歌いに行きました！そうしてゆっくり音楽の道へ舵を切ることになりました。

ただ、この病気は「治る」事は難しく、通院・服薬で一生うまく付き合っていかなければなりません。当然薬には副作用があり、私の場合困る症状がいくつか出ていました。その一つが「手指のこわばり」です。入院中「うつ病」の治療で飲んでいた薬では大丈夫だったのですが、「統合失調症」の薬に変わったとたん、今までのペンの握り方で文字を書く事ができなくなったのです。入院中、簡単な日記をつけていたので、その変わり様は顕著でした。特に親指が不自由になり、また一つ絶望しました。

昔は文字を書くのが好きでした。でも今は、例えば役所などに提出する用紙（長い文章なら代筆をお願いしています）や、街中に溢れる申し込み書の類いが苦痛です。ペンを親指の上に乗っけて握るので関節にタコできて、書く時痛みが伴うのです。あ、太いマジックだったら大きく握れるので、サインは大丈夫です（笑）。

当然、ピアノもまともに弾けなくなってしまいました。元々下手なんだから、上手な方に弾いて頂けばいいじゃん！！と今はもう割り切っていて、「声が出る」だけで奇跡的なありがたい事だと思ってます。あと、自身初、歌い手の「+α/あるふぁきゅん。」さんへの楽曲提供のお仕事も頂け、とても嬉しかったです！